全日本仏教会理事長
森 和 久 様
全日本仏教会理事
浄土真宗本願寺派宗会議長
石 上 智 康 様
全日本仏教会理事
浄土真宗本願寺派総長・基幹運動推進本部本部長
武 野 以 徳 様
中央審議会議会会長
鳥 居 泰 彦 様
九州・沖縄同朋運動推進協議会
会長 川 上 信 定
『新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について
の「要望書」』の撤回を求める申し入れ
全日本仏教会は、2003年2月4日付で中央審議会議会に『新しい時代にふさわしい教育
基本法と教育振興基本計画の在り方についての「要望書」』(以下「要望書」)を提
出され、今後の公教育において「日本の伝統文化の形成に寄与してきた宗教に関する
基本的知識」等についての理解を図るべきだと要望されました。
しかしこの要望内容は、以下に「問題点」として示すとおり、これまで「首相の靖国
神社参拝反対」として「信教の自由」「政教分離」の遵守を求めてきた全日本仏教会
の基本方針にも矛盾しています。さらに今回の教育基本法の見直しそのものが、有事
法制を実現させた政府主導の中で「戦争のできる国民づくり」を主眼としているとの
指摘もあり、仏教の教えにもとづき平等・平和を求める諸宗派の願いにも相反するも
のです。また所属する宗派・諸団体における了解を得る手続きも経られていません。
したがって今回の「要望書」は、日本仏教徒の多数意見として容認できるものではな
く、その白紙撤回を求めます。
「要望書」の問題点
1) 「要望書」にもある通り、全日本仏教会は「全国七万五千の仏教寺院を包括する
五十八宗派を中心に、都道府県仏教会、仏教系諸団体加盟のもと結成された伝統仏教
の連合体」であり、非常に多種・多様な宗派によって構成されています。今回の「要
望書」は、その構成諸団体における合意形成の手続きを一切経ることなく一部のもの
によって作られたもので、全日本仏教会を代表する位置づけを持つものでは全くあり
ません。
2) 特定の教宗派によって構成されている全日本仏教会が、教育に関わる憲法と称さ
れる教育基本法の見直しに具体的条文の内容にまで直接に介入して、公教育に宗教教
育の導入を求めることは、憲法に定める「信教の自由」「政教分離」規定の趣旨に反
しています。さらに、これまで全日本仏教会は「首相の靖国神社参拝反対」等により
「信教の自由」「政教分離」の遵守を求めてきており、その方針とも大きく矛盾する
ものです。すなわち「要望書」は、全日本仏教会のこれまでの方針を根本的に変更す
る内容のものであり、一部の委員会などで決定できる性質のものではなく、全体に及
ぶ合意形成の手続きは不可欠のものです。
3) そもそもにおいて今回の教育基本法見直しの動きは、「戦争のできる国づくり」
とも言われる有事法制化を実現した政府主導のものであり、その内容は「戦争のでき
る国民づくり」ともいうべきもので、重大な危険性が指摘されています。そしてそれ
は、ブッシュ米国大統領が主導している世界戦略の背景にあるとされる新自由主義・
新保守主義の動きとも連動しています。市場原理尊重の名のもとに能力主義・競争主
義がさらに先鋭化され、極めて限られたものの利権だけを守り、社会的・経済的に弱
い立場の人々を排除・差別することを容認する階層社会を前提として、その国家管理
を強化するというものです。本来の仏教の教えにもとづき、非戦・平和、人権・差別
の問題への取り組みを推進している多くの仏教諸宗派の願いとは全く相容れない考え
方にもとづくものです。
4) 「日本の伝統ある宗教についての教育を学校教育にも」という趣旨の主張は、一
見、日本において長い歴史を持つ伝統的な仏教教団に利するかのような印象を与える
かもしれません。しかし一方その実現は、教育現場における多様な信仰の人々の信教
の自由を奪うことにも他なりません。また上述したような政治状況の中では、一転し
て、いとも簡単に新たな「国家神道」の復活ということにもつながりかねない非常に
危険な動きです。事実、今回の教育基本法見直しと連動して学校教育の副読本として
その使用が強化されている(新たな修身教科書との指摘もある)『心のノート』を主
導した河合隼雄・文化庁長官は、近著『神話と日本人の心』の中で、日本神話の世界
を日本人にとっての新たなアイデンティティの原点として主張しています。
以上*****
|